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じょうぶな頭とかしこい体になるために-五味太郎VS.子どもの疑問・悩み・希望

2008.11.4

出版社:ブロンズ新社 著者:五味太郎

発行:2006年7月

絵本作家である五味太郎は本書で問う。巷には「かしこい頭とじょうぶな体」の「よい子」をつくる方法ばかりがあふれているが、きつい問題もなんとかこなせる「じょうぶな頭」と、好きは好き、嫌いは嫌いとはっきりわかる「かしこい体」をつくるための手法は驚くほど不足しているのではないかと。
五味は本書を「じょうぶな頭とかしこい体になるため」のトレーニングブックとして位置付けながら、子どもたちの疑問・悩み・希望に、真っ向から回答していく。そしてその中で子どもたちへと贈られた真摯な言葉と絵は、実は私たち大人こそを返す刀でバッタバッタと斬っていくのだ。子どもにはもちろん、ぜひ大人にこそ読んでいただきたい痛快きわまりない一冊なのである。
現在の医療福祉の世界では、人々の生活を物質的な面から量としてのみとらえるのではなく、精神的な豊かさや満足度も含め質的に捉えようとする動きが活発だ。そしてそのキーワードとして用いられることの多い「クオリティ・オブ・ライフ(=QOL)」とは、「生命の質」「生活の質」「人生の質」と訳され、重視されていく傾向が顕著である。そしてこのQOLこそが、子どもたちに関わっていく者たちにとっては必須な視座なのではないだろうかと考えさせられることが多い。子ども時代におけるQOLの如何において、当然ながら成人後の「人生の質」が大きく左右されていくことは想像に難くない。近代教育における「かしこい頭とじょうぶな体」づくりへの信仰にも似た強い指向性に対し、QOLという視点から一度翻してみてみると「じょうぶな頭とかしこい体になるため」のこうしたアプローチこそが、未来を生きる子どもたちに関わる者のための教養として欠かせないことがよくわかる。
実は、そんな子どもや大人たちにむけて、問題解決やトレーニングの手法、学びと創造の手法としてあらゆる分野でワークショップという手法が現在花盛りなのである。しかし、そもそもワークショップとは何であろうか。その明確な定義もわからぬまま、流行しあまりにも簡単に汎用されすぎているのではないかと私は疑問を感じることがある。
そんな折、私は本書と出会い「かいこい頭とじょうぶな体」づくりばかりを指向する学校教育的指導のアンチテーゼとして、現在のワークショップの隆盛があるのではないかということに私は気づかされていった。「じょうぶな頭とかしこい体になるために」自らが自らに行う学びほぐし”unlearn”体験こそが、ワークショップというものの実態であるのかもしれないと気づかされた。
本書は読書体験をとおしワークショップ的な知の学びほぐしを、小さな読者と大きな読者の分け隔てなく喚起させようと試みる実に実に誠実な一冊なのであろう。

評者:アートセラピスト 石田陽介

引用:表紙はブロンズ新社サイトから引用

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