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哲学する民主主義 伝統と改革の市民的構造

2010.5.11

出版社:NTT出版 著者:ロバート・D・パットナム

発行:2001年3月

道州制は「地方分権の究極の姿」である、と言われる。中央集権を脱却し、地域の自立的な発展を実現する上で、道州制の導入を求める声は根強い。こと道州制議論を先んじて進めてきた九州においては尚更である。一方で、仮に道州制が導入されたとき、たとえ全国で一律の制度が導入されたとしても、どの地域も同じように改革が進んで発展する訳ではないことは容易に想像される。道州制に対する批判・不安の中でも、地域格差が進むのではないかという声がよく聞かれる。では「改革が進み発展する地域」と「遅々として改革が進まず停滞する地域」、この両者の違いはどこにあるのか。本書はその疑問に対してひとつの答えを示してくれる。
本書は、1970年にイタリアで創設された州政府が実施してきた公共政策の効果を検証したものである。本書の特徴は、徹底した実証分析である。約20年間にわたる統計データや州議員・地域リーダー・一般市民へのアンケート・面接調査を用いて、考えられる疑問や仮説を定量的な分析を通じて解明しされていく。識者が述べそうな事象や、感情的に解釈されそうな事象を丁寧に切り分けていく手腕には、社会の謎と本質を紐解いていく心地よさを感じる。
実証に基づきさまざまな要因を整理したうえで、本書の結論部分では、公共政策のパフォーマンスの違いは、それぞれの地域に記憶されている伝統や制度、特に市民共同体の形成された歴史に所以する、というところに行き着く。これは住民の信頼、規範、ネットワークを通じた協調的な行動を活発化することで、社会的な効率性を高めることができるという「ソーシャル・キャピタル」の考え方につながるものである。
いかに優れた制度下でも行動するのは人間であり、人々が形作る社会のあり方によって効果が規定される。道州制のような大きな地域改革が効果をもつには、地域住民はどのようにあるべきなのか、ひとつのあり方を示しているといえよう。
著者のロバート・D・パットナムはアメリカの政治・社会学者であり、ソーシャル・キャピタルの理論を実証的に分析し、世に広めた第一人者である。本書は、大きな制度改革の検証から社会に切り込んでいるが、一方で人々の小さな変化の積み重ねから社会を見るという視点からは、同著者の「一人でボウリングを」をお勧めする。かつて皆で楽しむレジャーであったボウリングを今では一人でプレイする人が増えている、そのような現象を積み重ねて見えてくる現代社会像を明らかにしている。

評者:九州経済調査協会 調査研究部 研究主査 南伸太郎

引用:表紙はNTT出版サイトから引用

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