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なぜ、改革は必ず失敗するのか

2010.5.11

出版社:WAVE出版 著者:木下敏之

発行:2008年6月

農水官僚から転身し、古里の佐賀市長を六年半務めた著者による「自治体経営論」。市長として実践した改革と挫折を前半につづり、どの自治体にも共通する今日的課題と提言を後半にまとめた。
人口減少、財政危機、地場経済の低迷、そして地方分権の進展。地方のいまと近未来を考えると、自治体は従来のままではいられないはずだが、本気で改革に挑んでいる知事や市町村長がどれだけいるだろうか。
そもそも、自治体改革は誰もが笑顔で受け入れるような甘いものではない。
著者は「改革とは、既得権益を次から次にはがしていくということ」と定義する。市長時代は市職員、市議会議員、公共事業を介して利害関係にある事業者の「既得権益」にメスを入れた。職員の天下りポスト廃止、慣行になっていた退職前昇級の是正、議員の口利きや談合の防止策などを次々と打ち出したが、急進的と呼ばれた木下流改革は度々抵抗に遭う。その最たるものとして、親類が暴漢に二度襲われる場面が生々しく描かれている。
三度目の市長選挙で落選し、改革は中途で終わった。政敵や強力な反対票が増えたためであり、それは「改革が本来的に抱える厳しさ」であると振り返る。一方で、市政改革に対する市民の実感、共感が広がらなかった結果とみることもできる。本書には詳しく触れていないが、市民との相互理解が不足していたことを著者は反省点として自覚している。
いま民間の研究者兼企業人として、自治体の経営感覚を磨く必要性を全国で説く。例えば、人口推計に沿って地域の将来設計をすること。非現実的な人口増加予測を前提に過大な公共投資を見積もり、借金返済にあえぐ、というのがよくあるパターンだった。
「企業経営の経験者を自治体幹部に迎え入れよ」という提案は、役所の脱慣行、スリム化、多様な人材育成の両面で効果があると思える。(初出: 西日本新聞 朝刊 2008年7月27日)

評者:西日本新聞社書評委員 前田隆夫

引用:表紙はWAVE出版サイトから引用

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