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笑う門にはチンドン屋

2010.8.24

出版社:石風社 著者:安達ひでや

発行:2005年2月

町に笑顔をふりまく。四十歳を過ぎても若者だ。これほど仕事を楽しく、生き生きとしている若者は、なかなか見かけない。著者は総勢十四人を抱える福岡市のチンドン屋である、アダチ宣伝社の社長。その著者の自伝でもあり、チンドン屋の舞台裏も紹介する本である。チンドン屋への常識、あるいは偏見を、笑い飛ばしている。
著者の自己紹介をしたときのこんなエピソードがある。
「僕、チンドン屋です」
こう答えるたびに相手は返事に困った、という。こんなケースもあった。「おもしろーい。で、本当の職業は…」
そのときの気持ちを、こう書いている。「チンドン屋という職業が認められていないからいけないのだ。どうやらふざけた仕事と思われている。いや、もしかしたら職業と思われていないのかもしれない」
が、肩ひじを張らない。つねに、笑いかけようという心が世の中の目を変えていく。
著者は熊本県荒尾市の出身。山口大学を中退した後、福岡市でロックバンドを結成。作詞、リードボーカルを担当した。「どういうパフォーマンスをやればお客さんが喜ぶか」も、このとき学んだ。通称「イカ天」と呼ばれた深夜のバンド番組でも三週間連続で一位になった。ピエロ風の派手な衣装、旺盛なサービス精神…。ラジオのDJもやった。が、知人の連帯保証人になって借金の山に。
福岡市の親不孝通(現・親富孝通)で投げ銭目当ての路上演奏を始めた。一輪車乗りのパフォーマンスにも挑戦した。たまたま中華レストランの街頭宣伝を頼まれたのがチンドン屋開業のきっかけとなった。人生、音楽と笑いで切り開いていく。
地元の小学校の授業で先生がこんな質問をした。「みなさんの住んでいる町には、どんな会社や商店がありますか」。児童が答えた。「日本一のチンドン屋さんがあります」
福岡という都市の誇りになっている。

(初出: 西日本新聞 朝刊 2005年3月6日)

評者:西日本新聞社書評委員 松尾孝司

引用:表紙は石風社サイトから引用

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