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昭和史 1926-1945

2009.12.27

出版社:平凡社 著者:半藤一利

発行:2009年6月

敬愛する先達のひとりである故宮澤喜一先生は、機会あるごとに「誰か昭和の歴史を書かないかな」、「多くの人が納得するような昭和史を残す必要がある」と言っておられた。我々は「先生こそ昭和の歴史を体験してこられたのだから、ご自分で書いたらいいじゃないですか」と半ば本気で奨めたりしていた。きっとご本人は、昭和を生きてこられて、なぜ日本があの戦争に踏み込んでいったのか、そしてあれだけの惨禍をもたらしたのか、そこを歴史に留め後世に伝える必要があると痛感しておられたのだと思う。
著者は、そのことについて、日中戦争前年の永井荷風の日記などを引用しながら、当時の日本の禍根は、政党が全くだめであること、軍人の過激な思想、国民が上の言うとおりにただ流されていることなどを挙げている。
明治維新以降、世界の情勢をよく読み、知恵を絞り、石橋をたたいて渡るように慎重に近代国家を築いてきた日本だけに、昭和史における多くの過った選択は際だっていて、今の日本にもいろいろ語りかけている。
一つは、情報を集め、分析し、それに基づいてことを決することの大切さである。
多くの情報が赤信号を出していたにもかかわらず、国際連盟脱退、三国同盟、そして対米英戦争に行ってしまった歴史は、情報に対する感度の悪さは民族的欠点ではないか、と疑いたくなるほどである。
第二は、国際感覚。客観的に国際情勢を読み、その中で日本の安全や発展に最良の枠組みをつくり出すことが大事だが、これも日本人はあまり得意ではないという自覚を持って処する必要がある。
第三は、国民的熱狂に流されてしまい、時の勢いに駆り立てられてしまわないように。「バスに乗り遅れるな」で三国同盟に走り、ずるずる行って、「もうだめだ、戦争を覚悟せざるを得ない」で本当に戦争まで行ってしまった。ぐっと踏みとどまって、よく考え、選択する知的しぶとさも肝に銘じておくべきだ。
「歴史は現在と過去の尽きることのない対話である」と言われるが、本書は現在の混沌に、忘れてはならないことを語りかけている。

評者:大分県知事 広瀬勝貞

引用:表紙は平凡社サイトから引用

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